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「ついていけない」

夜の道路    夜の街


10月15日。午後9時。メールBOXの[その他]フォルダに(1)の未読アリ。

私は恐る恐るそのフォルダを開く。タイトルを見て、私の喉が急に渇き始める。

――今夜は、どうしたいですか?


 


「ついていけない」



助手席のドアを閉めた音無小鳥は、子供のように頬を膨らませて言った。

その様子を見て、プロデューサーは首を傾げる。

「俺の車の助手席に乗るなり、『ついていけない』とは、矛盾してませんか?」

プロデューサーはフットブレーキを踏み込むと、コラムシフトをDに入れて車を走らせる。

車は国道1号線を北東に進みながら、当て所も無く、信号の赤と青の波間を泳ぐ。

車の中は隔離空間であり、2人が2人になれる場所だった。


「あのメールです。ひどいですよ。何もかも、私に丸投げなんて」

小鳥の声は怒っている様で、どこか煽っているようだった。

「俺だって、付き合ってる女性とのデートなら真剣にプランを組みますよ」

プロデューサーの声は怒っているようで、どこか冷めているようだった。

「うわ。ひどぉい」

「ひどいのはどっちですか。真剣に交際申し込んだのに、断った挙句に――」

「まぁ、その辺の事は置いておきましょう! ええと、今日の予定ね!」


765プロは一時期の崖っぷちから見事に生還を果たし、今や中堅のアイドル事務所となった。

その最大の功労者が、社長が連れてきたこのプロデューサーである事は明らかだ。

彼のプロデュースしたユニット『ブランシェ』はトップアイドルとなり、765プロを再生させた。

押しも押されぬ敏腕プロデューサーとなった今も、765プロの中心人物なのは間違いない。


そのプロデューサーから、交際を申し込まれたのは、彼が765プロに来た直後の事だった。



右も左も分からない、ただ、やたらと純粋な目をした青年――。

出会って間もないプロデューサーの告白を、小鳥は、一種の舞い上がりだと判断してしまった。


『Aランクアイドルが誕生したら、考えます。だから、今はお仕事、頑張って下さい』


そんな答え方をした。

Aランクなんて夢のまた夢、そう思っていた小鳥の誤算は、その1年後、明らかとなった。


――自分は、アイドルでもなんでもない。ただの事務員で、プロデューサーよりも年上で。


新人クンの方が、まだ付き合いやすかった、とその時初めて後悔した。

1年経って充分な実績を挙げた敏腕プロデューサーは、遥か遠い世界の住人に感じられた。

青年は、その大きく頼もしい背中のせいで、逆に近づけない存在になってしまっていた。



車は高輪台を抜け、夜の潮流と光の渦の中を泳ぐ。

車の中には、ビリー・ハーパーの『I Do Believe』が流れていた。

当て付けですか――そう聞けるほど、小鳥にとって、プロデューサーは軽い存在ではない。



きっと、もっとあなたに相応しい女性が現れるに違いないから。



その言葉を、小鳥は何度口にしかけただろう。

その度に、喉が石になったように動かなくなり、ついには言えずじまいだった。

自分の名誉の為に。あるいは、否定されなかったら、という怖さに勝てずに……。


「今でも、俺が体目当てで交際申し込んだと思ってますか?」

プロデューサーはまっすぐ前を向いたまま、真顔で聞いた。

『ブランシェ』の解散コンサートの翌日、プロデューサーは改めて交際を申し込む。

小鳥は、妙に明るい声で、プロデューサーに問い返したのだった。


『手近な所で、欲求不満を解消したいだけですよね?』


小鳥自身、なぜあんな発言をしてしまったのか、今でも解析できずにいた。

捉えようによっては、ひどく自信過剰な発言でもあり、同時に自己否定でもあり。


「あの時は、その、何か、色々動転してしまって、私なんかでいい訳無い、って思って……」

「じゃあ、今は本気だって信じてくれますか?」

「ダメです! プロデューサーさんが私なんかに本気になっちゃダメですよ!」


これはこれで、事実だった。

ユニットを含め、6人のアイドルが彼のプロデュースを受けている。

そして、小鳥の目から見ても、彼女達はプロデューサーに憧れ、信頼している。

小鳥との正式な交際が伝われば、大なり小なり傷付く子ばかりだった。


「今は、大事な時期なんですから。プロデューサーさんは恋愛禁止です」

「じゃあ、今日はこのまま小鳥さんをお住まいにお送りして、帰るだけですか?」


小鳥は人差し指を頬に当てると、一瞬だけ考える素振りをしてみせた。


「どこかでご一緒にお食事しましょう」

「それは、デートではなく?」

「同僚と晩ご飯食べて帰るくらい、普通です」


小鳥は満足げに頷き、プロデューサーは不思議そうに首を傾げる。


「その後は?」

「2時間くらいなら、寄り道しても平気です」

「それは、正式な交際ではなく?」

「健康的な男性の性的欲求からアイドルを守る為の自己犠牲です」

小鳥は両手を胸の前で組み、シスターの様に目を閉じて、嗚呼、と吐息をもらした。


「なんか、俺、ものすごい悪い奴みたいじゃないですか」

「してる最中に私の事、別の誰かの名前で呼んでもいいですよ。秘密にしますから」

ふふ、と小鳥が笑い、プロデューサーはハイハイ、と曖昧に言葉を返す。


「ついていけない」


呆れたようなプロデューサーの声に、小鳥は小さく笑った。

不安と、淋しさと、ほんの少しの喜びを飲み込んで、小鳥は小さく、笑って見せた。


車は左にウィンカーを上げると、進路を六本木へと変えた。




アイマス1時間SS 参加:テーマ「お菓子」「キレイ」「ついていけない」「秋風」

 

テーマ:アイドルマスター - ジャンル:ゲーム

2010.10.16 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 小鳥とP

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